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リアルシンデレラ~姫野カオルコ著~不幸そうで幸せ?姫野流幸せ論

ようやくこの本を読み終えました。これほど面白いけど主人公と自分が乖離した感覚を持つ作品はめずらしいです。入り込めない・・だけどれど1ページたりとも読み飛ばさず丁寧に読もうと思う不思議な作品。主人公は倉島泉。器量も良いが病弱ゆえ、親や周囲からの愛を一心に受ける妹深芳。一方で輝く深芳の陰のように生きる泉。この物語は昭和の中期における諏訪を舞台に、泉の人生をライターが追いかけ、泉を知る人がインタビューに答え回想していくスタイルで進む。この著書のタイトルもシンデレラという文字が踊る。その名前の通り、女性の幸福について独自のスタイルで突く本です。

童話のシンデレラは誰しもが一度は思い描く女のサクセス・ストーリーの原型モデルです。そのお話はざっとこんな感じ。

継母、姉達にいじめられ毎日のシンデレラ。シンデレラはいじめられても辛くても、いつかステキな王子が現れ自分は幸せになれると夢見るのでした、そんなある日魔法がかかって、ステキな王子様があらわれ結婚をしましたとさ。

シンデレラな生き方とは、ステキな王子に見初められ幸せなるという流れなのだが、1人の女性としての性を生きることでもある。ところがこの主人公、泉は全く性を感じさせない。ストーリーでは、理解しないものからは愚鈍な女のように描かれるが、泉の視線は違っていた。ただ人前では気づかれなかっただけだ、悲しくも家族の誰1人として理解されなかった。自己主張は下手だが時代の2歩先くらいのセンスを持ち合わせた、自分の立場を理解しすぎるほど、また周囲が何を求めているのかわかりすぎるほど、また神の域のような良識を持つほど聡明だった。周囲がまったく普通すぎて、ただ理解されなかったのでしょう。

本書はリアルシンデレラだけれども、まったく泉には現実味がなく私の人智を超えたところに生きている女性であった。ごく普通に恋愛して結婚を望むリアルな女性ではなかった。それはなんのことはなくて自分はいたって世俗的な人間ということだ。泉は普通の幸せ論ならば不幸に色あせた人生で片付けられるが、事実物語りでも普通の女性であろう奈美には、不幸な女性としてしか語られていない。しかしつまらない物差しで計ってなんだろうと、物語の最後のところで3つの願いの秘密が明かされる。その願いには、普通に生きた女性よりもはるかに心豊かで美しく切ない人となりを悲しいほどうつしだしている。それが昭和の女性という狭いくくりに合わなかっただけなのに。

当初この本を手にしたとき、この表紙にびっくりしてしまい子供には見せることができなかった。しかしこの表紙であること、女性の幸せとは何か?を正面から挑戦的に問う表紙なのだ。読破したあとでこの表紙を選んだ理由がみえてくる。そしてインタビュー形式で出てくる父親、母親を含め周囲の人間の勝手な言い訳、一人の人間の見方の違いもよく取れる。人はそれぞれ勝手な生き物なんだなーと。

ちなみにこの作品は直木賞候補でしたが受賞は逃しました。作品は賛否両論ですが恋愛至上主義な林真理子さんは否の立場です。それはそうだろう、愛を否定するつもりもありませんが、これほど恋愛に遠ざかったところから女性の幸福を語るのだから。

次に読んでいるのは、未来の捜査はこうなるのか?DNAが全て国に管理される背筋の寒い時代。2013年ロードショウのあの作品です

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