2016年終わりに出版された西加奈子さんの最新作品です。
シリアから養子としてアメリカ人の父ダニエル、日本人の母綾子のもとにシリアから養子として育った「アイ」。両親は優しく寛大であり裕福。周囲から見れば理想的な家庭で育ったアイ。
一方で同じシリア人でも内戦に巻き込まれ命落とす人、世界中にはその日の生活にも不自由するような人も存在している。日々世界中で起こる死者の数を数えながら、恵まれた自分の環境に罪悪感を感じながら過ごすアイ。親友ミナのLGBT、自身の結婚、流産、3.11を発端とした反原発運動を通し自分と向き合っていく。
300ページ位の作品ですし、読了までは難しくありませんでした。感想としては一言で表し難くいです。それは本作品のテーマが盛りだくさんであることが原因の1つでもありますが、主人公に対し好感を持ちきれなかった点にあると思います。
主人公アイは恵まれた環境、優れた知性と細やかな感受性を持ちながらも、ただ罪悪感の名前の下で、行動を決められない、先に進めない弱さと卑下しすぎな点が気になりました。それは私自身が持ち合わせていないものをアイが持っており、単なる僻み根性ゆえでしょう。
弱すぎるアイには同感しきれない想いを感じつつも、作品ラストでアイと仲たがいした親友ミナからのメールが一番心打ちました。それは悲劇の現場おらず、自分が安全な場所にいても、その出来事に対し想いをはせ理解しようとすることは偽善ではないこと、自分は当事者ではなくとも、想像することで相手に寄り添うことができるという部分。
想像することで相手に寄り添うということは、これぞ高度な知性を持った人間ならではの行動ではないかと気付かされました。
また作品中には「銃弾の降らない夜が奇跡」とありました。それは毎日入る世界情勢のニュースを見ていれば安易にわかりそうなことですが、安全な部屋にいる私にとってはショックな一文でした。
銃弾で罪なき人を殺めることは作品中に象徴的に幾多も投入される「この世にはアイは存在しません」で表され、愛なき行動と思いますし、一方で当事者でなくとも相手を想う心、理解しようとする行動は「この世にはアイは存在します」で表され、愛ある行動でしょう。
全般にわたり優しい文体でありながら重量感のある作品、そしてラスト、アイに救われる作品でした。
i [ 西加奈子 ]
|