紙の月～角田光代著

最近読んだ本です。ドラマ化され11月には宮沢りえさん主演で映画が公開されるようです。

自分にあまり関心を示さないサラリーマンの夫と結婚生活をする梅澤梨花。つつましやかな生活をしていたが、いつも自分を経済力のなさで軽く見下す夫との生活に違和感を感じ。状況打破のためにわかば銀行へ契約社員として仕事をはじめた。ある日、年下の光太と出会い付き合うを続けていくうちに、金銭感覚が麻痺してお金で何でも手に入る感覚に陥る。スイートルームに泊まる毎日、ブランド品、高級料理店での食事。。梨花のお給料でまかなえるはずもなく、裕福な顧客の資金を横領をする。
ストーリーは梨花を中心として進められるが、彼女を知る岡崎木綿子、山田和喜、岡崎亜紀らの語りが入りつつ梨花の人物像をゆっくりと浮き上がらせていく。木綿子はセール品を追いかけ苦しい生活を送り心のゆとりをなくしている。和喜はお金のなさを嘆く妻を持ち浮気を肯定している。バツイチで親権を逃した、破産こそ逃れているけど買い物をやめられない亜紀。
梨花をはじめ「お金にとらわれてしまう」ことは何ら不思議でもない。1億ものお金を横領した梨花も最初から豪遊して横領をしようと思ったのではなく、借金がある年下の光太のために用立てをしたり、食事を奢る間に、彼の役に立つことは正義なのだと感じる。夫からは経済力もなく、たいした価値のない女と見下されていた自分ではない・・誰かに必要とされていることは全て正義であると感じるようになる。どこにでもいる人が、いつしか壊れる時とはゆっくりと白に他色と交わるように進んでいく感覚が良く書かれていると思いました。

しかし私は最初も最後も主人公の梨花は好きになれませんでした。自分で人生をしっかりと選ぶことを怠ってきただけの、ただの選べなない人にしか見えないし、ちっとも魅力的じゃない。そんなわけで読了した後もなんともすっきりしない作品ですが、こんなグレーになるストーリーでも最後まで読ませてくれるのは角田さんの筆力だからだろう。個人的には八日目の蝉のほうが好きだな。